世界各国の宝石マニアたちが一同に会するツーソンジェムショー。ビズーのバイヤーも毎年毎年、足しげく通っています。しかしその理由は、ただ石を買い付けに行くだけ・・というわけではありません。鉱山主に直接会って、宝石に関しての理解をより深めるため、バイヤー同士情報を共有するため、時には去年買った宝石商とただ世間話をするために、わたし達は会場を歩きまわります。そこでまた新しい人と出会い、新しい宝石を見つけることが出来るのです。人がつなぐ、宝石との出会い・・ビズーのバイヤーは何度もそんな運命のような出会いを繰り返してきました。
人がつなぐ、宝石との出会い
Travel for jewelry in TUCSON
Rhodochrosite
二度と採掘されることのない「幻の宝石」
スイートホーム産ロードクロサイト
地球上には、もう二度と手に入らない宝石が数多に存在しています。これから紹介するロードクロサイトもそんな宝石の一つ。実はこのロードクロサイトが採れるアメリカ・コロラド州にあるスイートホーム鉱山はすでに閉山されており、新しいルースが出回ることはなくなってしまっています。宝石は自然の資源-もともと産出量も少なかったスイートホーム産は、この道数十年のディーラーでも実物を見た人は少ない、まさに「幻の宝石」。そんなルースに私たちが初めて出会ったのが、2015年のツーソンジェムショーだったのです。
秘蔵コレクションの中に、
ひときわ美しいバラ色の宝石・・
幻の宝石・スイートホーム鉱山産ロードクロサイト。そんな貴重なルースを持っていたのは、ハワイ・マウイ島に住む、家族経営の小さな宝石ディーラーでした。稀少石を専門に扱っていて、ブースには世界三大稀少石であるブラジル産パライバトルマリンやアレキサンドライトなども並んでいます。しかしバイヤーの興味を惹いたのは、ひときわ美しいバラ色の宝石。それが、今や枯渇状態であるスイートホーム鉱山産のロードクロサイトでした。
「面倒くさくてごめんね・・」
娘にあきれられるほどの宝石への情熱
展示ブースに並べられた、とても美しいロードクロサイト達。大きいサイズばかりだったので「もう少し小さなロットはありませんか?」と聞いてみると、快く持ってきてくれました。特に目を見張ったのは、カボションカットのルース。通常、カボションカットを施すと色の乗りが悪くなったり色が抜けたりするのですが、このロードクロサイトは、その通説を覆すものでした。「きれいだきれいだ」とわたし達が話していると、宝石商のお父さんが「この宝石は原石から仕入れてきたんだよ」と語り出してくれました。何年も何十年もかけてスイートホーム鉱山の原石を探したこと、原石やカッティングラフを多く買い付け、世界でも腕利きのカッターに依頼してルースを製造したこと、自分の秘蔵ストックのことまで、お父さんの口上は止まりません。しびれを切らした娘さんが一言、「面倒な父でごめんなさいね」。どの国でも、父と娘の関係はこうなのだな・・と心の中で思ったわたしでした。
父親の熱い情熱がつまった秘蔵ストックの中から、私たちが選んで買い付けてきたスイートホーム鉱山産ロードクロサイト。毎年ツーソンに行くとその宝石商のブースにお邪魔しますが、やはりトップクオリティのルースは少なくなりつつあるのだそう。何千ものブースを、くまなく回って見つけたハワイ・マウイ島の宝石ディーラーの秘蔵コレクション。蔵出しルースの中から、大事に買い付けてきたこの宝石が市場から消えてしまうのは、もう時間の問題です。
Tanzanite
「こんなブルー見たことない・・」
歴25年のバイヤーが息を飲んだルース
自然の生み出したままの多色性、それらが混ざり合うニュアンスを楽しむことができるタンザナイト・・。実はこのタンザナイトとの出会いは、ツーソンではありませんでした。出会ったのは香港ジュエリーショー。香港は毎年3回ほど大きな展示会を開催するくらい、宝石の街でもあるんです。そんな香港のジェムショーでバイヤーが惚れ込んだのがこのタンザナイト。このサプライヤーのタンザナイトはサファイアのようなブルーとは全く違う、まさにタンザニアの夜空のような、様々な色彩が混ざり合うブルー。歴25年のバイヤーが思わずこぼした「こんな青いタンザナイト見たことない・・」という一言を皮切りに、私たちは食い入るようにこの宝石に釘付けになりました。
香港だけでなくツーソンでも・・
同じ宝石を違う展示会で買い付ける理由とは?
香港で出会ったタンザナイトですが、何度かこの宝石商から買い付けているうちに、彼らがツーソンにも出展していることを聞きました。「ツーソンにならもっとたくさんのコレクションを持っていくよ」というので「どうしてか?」と尋ねると、「香港よりもツーソンのほうがお客の層が厚いのさ」と。やはりツーソンのほうが宝石商やバイヤーだけでなく、コレクターや鉱山主も多く来るため、宝石をこよなく愛しているコア層にも見せるためのルースを、毎回持っていくのだそう。どんなルースを見ることが出来るんだろう・・そんな好奇心と期待を胸に、わたし達はツーソンのブースに行くことを約束しました。
今までに見たことのないカットがズラリ
ツーソンのために研磨したルースたち
10月の香港から4か月程が経ち、わたし達は会場を変え、もう一度タンザナイトのブースをたずねました。「ビズーです」と名前を伝えると、待っていたよ!とブース内へ。宝石商が出してくれたチョコとコーヒーに手を伸ばしながら待っていると、ブースの奥から沢山のボックスを持ってきてくれました。「こんなに!?」と数の多さにびっくりしていると、「この日のために沢山カットして持ってきたよ!」と。この会社は自社で職人を抱え、フォーム決めから、カット、磨き、全ての工程を熟練の職人が行っています。わたし達が楽しみにしていると言ったからでしょうか?今回のコレクションはクッション、ペアシェイプ、マーキスなど、タンザナイトではあまり見られない珍しいカットが施されたルースが沢山ありました。色が抜けない場所で、フォームを決め、何度も何度も研磨する気の遠くなるような作業。色の乗り具合、透明度の高さ、こんなに高いクオリティカッティングのタンザナイトに、心を奪われてしまいました。
タンザナイトの青に染まったサプライヤーのブース。タンザニアの夜空のような、様々な色彩が混ざり合うブルー。ダイヤモンドよりも稀少になると言われているその美しさを、ぜひ実際に見ていただきたい。
Rough-Cuts Stone
世界中から集めた
圧倒的に美しい原石のコレクション
ツーソンにあるモーテルの一室。一見展示会場とは思えないこの場所に、ひと際美しい宝石質の原石を扱っているブースがありました。カリフォルニア州、サンディエゴに住む宝石商が営むのは、原石の専門店。アフリカ、アジア、アメリカ・・世界中から採られたものすごい種類の原石が取扱いされています。一般的な原石のルースは「まさに石!」という印象を受け、輝きが鈍く不透明なものですが、こちらのディーラーが持っていた原石は、宝石質と言っても過言ではないくらい美しいものでした。透明感、テリ、色形・・すべてにおいてトップクラス。「こんな宝石屋さんがあるの!?」初めてこのコレクションを見たときの感激は、今でも忘れません。
地道に集めること10年以上・・
情熱をかけて入手した秘蔵ストックたち
「秘密なので、教えてくれないかな・・」と思いながらも、『こんなにもたくさんのコレクションはどうやって集めたの?特別なコネクションがあるの?』と尋ねてみたところ、実は10年以上もかけて、地道にコレクションしてきたことが発覚。アフリカ、タイ、その他鉱山の近くまで訪問して、鉱山主から、採れたての原石を譲ってもらうそうです。もちろん断られることもあり、何年も足を運んで仲良くなって、ようやく入手できる石もあるようです。「これほどたくさんの種類の原石をコレクションしているところはない!」と彼は胸を張って語ってくれました。
長いときには半日かけて、連日足を運んで、細かく石を厳選する私たちにも、困った顔をひとつも見せずに対応してくれます。『すべて自慢のルースだ』と言っていても、私たちにその中から"形と色が本当にきれいなものだけ"をセレクトさせてくれます。さらに、『これもきっと気に入るはずだよ』と、鍵付きチェストの中から秘蔵コレクションまで。もう何年も通っていると、ちょっとずつ私たちとの息も合ってくるもの。ディスプレイされていない秘蔵石の中から、こちらが欲しい石を察して見せてくれたりもします。
当然このブースは、各国のバイヤーでいつも賑やか。時間と情熱をかけてコレクションされた原石が、世界中の人を輝かせているのです。