宝石ハンター日記_インド・ジャイプール編 (2/3)
Vol.2 宝石の買い付けは、ハートが大切
今回は、地球儀から視野をギュッと狭めて、ジャイプールのオフィスの一室へと移ってみましょう。
ここは、長年のコネクションがあるからこそ訪れる事ができる、秘密のオフィス。たとえ「宝石を買いに行こう!」と思い立って、インド行きの航空券を手に入れたとしても、簡単には訪れることができない場所です。扉を開けると、そこには世界中から買い付けられた宝石が並びます。私たちの役目は、顧客の心に刺さる一石を選び抜く事です。
買い付けは、朝から晩まで続きます。
ランチは大抵の場合は、デリバリーでピザかサンドイッチをササッと食べます。そして、再び宝石の選定へ。求める色、サイズ、価格が全て満たされるルースに出会うことは奇跡。その中で、最適なロットを探し出します。さらにそこから、インクルージョンや面キズなどをチェックする。サイズも測る。骨の折れる作業です。没頭のあまり、自分達が母国なのか、異国なのか、どこに居るのかさえ忘れてしまう。それほどの集中力を要します。
大切なことは、こうした作業の間、石を見せてくれる宝石商は、私たちがどれだけ本気で石に向き合っているのかを見定めているということ。「出会えなくても仕方がない」天然石の世界の中で、「バイヤーがどれだけ本気で石を求めているのか」彼らは確実に見ているのです。
最初は「無いよ」と言われた宝石を、数日後にようやく見せてもらえた、ということもありました。
宝石の買い付けは、人と人との”感情の”コミュニケーションが肝心です!
例えばあなたに、大切な思い出の品があったとします。誰に、どうやって受け継いでもらいたいでしょうか?同じ趣味の人へ販売するのか?家族に譲るのか?そもそも手放したくない?本当に大好きなルースこそ非売品にする宝石商を、私はこれまでに何度も見てきました。
宝石商は、宝石を売って生計を立てているプロですが、同時に手放したくないほどに、所有している宝石に愛着を持っています。それはビジネスを超えた、とても個人的な感情です。
私はビズー創業期から宝石の買い付けに携わっていますが、バイヤーとして大事なことは、交渉力よりも宝石への愛と好奇心だと思っています。12年かけて普通では出会う事ができないような宝石商と繋がる事ができたのは、カラーストーンがどれだけ好きか、母国語が異なる人たちに、丁寧にときに熱く伝えて来たからなのだと思っています。
「ビズーのお客様は、宝石を大切に愛してくれる」という事も、買い付けの場面では毎回お伝えしていることです。「この人になら、大切な子をお嫁に出しても良い」そんな風に思っていただけるように、コミュニケーションをとっています。
今回の買い付けで印象に残っているのは、インド人の宝石商の言葉。
「ダイヤモンドの売買では、4Cという基準があり、価格は国際的に管理されている。だから何個売れるかで結果は決まる。大手が強くて、それは今日も10年後もきっと変わらない。
でもカラーストーンの売買は、そこで生まれる可能性は無限大。種類、色、シェイプ、サイズ、カットは多種多様で、誰に何を売るのか、そこに生まれる化学反応は予想がつかないし、自分たちの個性が出せるから面白い。
だから私は、この商売をしているんだよ」
今回のインド・ジャイプールの旅では、ビジネスという枠を超えて、宝石に純粋に真剣に向き合うプロたちに出会う事が出来ました。
彼らが世界中の誰に売るか自由に決める事ができる中で、ビズーに期待して待って下さる方のために、どれだけ宝石を買うことができるか。バイヤーとしては、身が引き締まる思いです!
次回は、ジャイプール編の最終話。
Vol.3 「石から宝石へ。秘められた原石の世界」(3/3) をお楽しみに!
バックナンバー:Vo.1 「私たちが海を超える理由」(1/3)